パワハラで問われる責任は?

裁判例

パワハラ事件が生じた場合、事業主は民事上どのような責任が問われるかを、次の事例を通して考えてみましょう。

     いなげやほか事件
     (東京地判H29.11.30)

事件のあらまし

知的障害がある労働者Xは、平成20年4月、首都圏でスーパーを展開し、障害者雇用に積極的な取組を行っているY1社に就職し、ベーカリー部門でパンの陳列や袋詰めなどを行っていました。しかし、指導役にあたるY2からパワハラを受けたとして、平成25年3月、Y1社を退社するとともに、Y1社とY2に対して損害賠償の訴えを起こしました。。

Y2の責任は?

まず、暴言・暴行(ハラスメント)があったかどうかを解明する必要があります。
もし、そのような事実があれば、暴言・暴行を行った者は責任を問われることは当然です。本件の場合、Xには集中力に欠けるところがあり、スポーツとして取り組んでいる水泳の大会のために休むこともしばしばであったため、Y2はXにたびたび注意等をしており、これについてXは、母親等に対して、Y2からいろいろな暴言・暴行を受けていると報告を行っていました。

そこで、裁判所は暴言・暴行ではないかと疑われる行為を一つ一つ検討し、Xからの伝聞以外に証拠がないものが多いとしつつ、平成24年8月にY2が「仕事ぶりが幼稚園以下だ」「馬鹿でもできるでしょう」と発言したことを認定し、その限りでY2の不法行為責任を認めました。

会社の責任は?

次に、Y2の不法行為に関する会社Y1の責任です。これについては、会社Y1の使用者責任があるかどうかが問題になります。本件では、Y2の不法行為がY1の事業の執行につき(仕事中に)行われたことが明らかなので、Y1も使用者責任を負うとされました。

しかし、ハラスメントの事案で問題になるのは不法行為責任や使用者責任だけではありません。というのは、XとY1には雇用関係がありますのでY1には安全配慮義務(就労環境整備義務)があります。会社が本来果たすべき就労環境整備義務を尽くしていないとすれば、会社はこの点について債務不履行責任が問われることになります。

本件では、裁判所は、Y1社については、仕事の進め方・指導法に合理的配慮が足りなかったとはいえないこと、またY1社では、店舗では店長にサービス介助士の資格を取らせるとともに本社でも知的障害者の就労を支援する体制を講じていたこと、家庭と連絡ノートを使うなどして連携を図っていたこと等から、就労環境整備義務に違反していた
とまでは言えないと判断しました。